壁紙の楽しみ方を聞きました

空き家・空き別荘のリノベーション。色で、小淵沢のよさを伝える。

塗料や壁紙は、空間を劇的に変えられる

「僕が23年間暮らしたイギリスは、実力社会。人種も背格好も関係なく、実力があれば向こうの人は受け入れてくれます。そのイギリスでデザインを学び、『Harrods』や『FARROW&BALL』で色々な経験をさせていただいたあと、次の人生のステップがほしくなりました」

こう話すのは、Kobuchizawa.Colourの植木一仁さん。40歳になる年に日本に帰国し、都内にあるイタリアのタイルを輸入している会社で働きながら、日本の建築業界の事情を学んでいきます。

「東京にいて、有名な建築物や大型の商業施設に関われるのは面白いけれど、それよりもやはり人が住む家。そして、タイルよりも壁紙や色に魅力を感じました。家の壁の色は、そこに住む人たちと触れ合いながら選んでいきます。それってドラマですから。僕は家族やその空間に合った色選びをすることで、そこに住む人たちをもっと幸せにするお手伝いがしたいと思いました」

色の効果で、もう一度恋に落ちる

そうして、2018年に小淵沢に移住。植木さんは八ヶ岳周辺の空き家や空き別荘を買い取り、塗料を生かしたリノベーションを進めています。

植木さんが手掛けられたリノベーション物件「Mt.cabin」

「別荘も空き家も、そのままにしておいたらどんどん朽ちていってしまいます。僕が住んでいたイギリスはリサイクルのまちでしたが、同じように日本でも使えるものは使いたい。だから僕は空き家や空き別荘に色で価値を与えたいと考えました。塗装だけで建物は随分変わる。そういうのを見せていきたいと思いました」

一般的にインテリアといえば、家具や照明、カーテンを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、植木さんが考えるインテリアは天井も壁も、家の中のことはすべて。面積が広い壁や天井に手を加えることで、空間は劇的に変えられると教えてくれます。

「壁や天井を自分の好きな色で塗ることで、古くなってうんざりして、嫌だなと思っていた空間が劇的に変わる。もう一度好きになれる、もう一度恋に落ちれるんです。これは壁紙にも同じことがいえると思います。あとは自分たちで塗装すれば愛着もひとしお。家をもっと大切にできるようになると思います」

まちの魅力を伝える色

Kobuchizawa.Colourをスタートしてから、植木さんはオリジナルの色を制作。15色あるそのどれもが、まちを表現した色になっています。

「小淵沢は、日常の中で目に映る様々な色がすばらしいまちだと感じました。これまでにつくった色は、夏に山が霞んだときに見える青緑色をイメージした「霞山(かざん)」、有名な雲海を表現した「雲海(うんかい)」、夕陽が沈んでオレンジや赤が消滅して、山際がだんだん青黒くなる。その瞬間を色彩にした「濃藍空(こいあいぞら)」。他にも僕の大好きな瑞牆山の岩肌を表現したグレーの「瑞牆(みずがき)」や、尾白川の水の色を表現した「尾白(おじら)」など、八ヶ岳周辺の色を制作しました」

植木さんが携わったMtCabinでは様々なカラーが使われています。

破風板・軒下・窓の折れ戸「雲海」
外壁 「霞山」
基礎 「濃藍空」

天井・壁「 瑞牆」
階段「濃藍空」

洗面所:天井・壁「 菫」
トイレ:天井・壁「尾白」

天井・壁「もぐらの吐息」
襖「FARROW & BALL壁紙 ペイズリー」

FARROW&BALL」の色合いをベースにしてつくる植木さんのKobuchizawa.Colour。最近では、県外の方が色のストーリーを聞いて選んでくださることも増えているそう。

「先日、川崎市のお客様に『霞山(かざん)』を紹介しました。するとその方は山が好きで、八ヶ岳にツーリングに訪れることも多いそう。壁を見て八ヶ岳を感じられる『霞山(かざん)』をリビングに塗りたいと言ってくださいました。この方がくださった言葉こそ、僕の想いそのものです。色でまちの良さを伝え、感じてもらう。そうして小淵沢のファンがどんどん増えたらいいですよね」

植木さんの頭の中にあるのは、その色は空間に合っているか、空間をどれだけよく見せられるかはもちろん、暮らす人のライフスタイルに合っているか。そして空き家や空き別荘であれば、そこに価値を付けられるものであるかどうか、ということ。 

「転売の物件をリノベーションし、地方活性化に繋げていきたい想いもあるけれど、それがメインじゃない。Kobuchizawa.Colourが実践していくのは、ライフスタイルに合った色選び。自分が愛せる家に帰ることができるって、すごく幸せなことだと思うんです。家に帰ったら、外での嫌なことは忘れてもう今日はワインですね!って。それぞれにとって家が一番大好きな場所になり、いつまでも見捨てられないものになってほしいと思います」

文:小栗詩織