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Toggleイギリスのライフスタイルに魅了された、色彩のスペシャリスト
著名なデザイナーを輩出しているロンドンの芸術大学「Central Saint Martins(セントラル セイント マーティンズ)でファインアートを専攻。「イギリスのライフスタイルに魅了されて…」と語るのは、インテリアカラーコーディネートのエキスパート植木一仁さん。2018年に北杜市に移住し、「Kobuchizawa.Colour」を設立しました。
「18歳のときに渡英。英語も話せないような状態だったので、まずは語学を学びました。語学学校を卒業する頃にはイギリスのライフスタイルや物事の考え方、人との付き合い方にどっぷり魅了され、もっともっと習うべきものがあると思ってイギリスに残り、芸術大学に進みました」
その頃の植木さんにとって、アートは英語で言語化できないインナーフィーリングを表現するための手段。卒業後は「MUJI Europa」「Harrods」と、小売市場トップの現場でマネジメントを身につけます。
「もっとクリエイティビティを使いたい」と考え始めていたころ、塗料メーカー「FARROW&BALL」からヘッドハント。
「『FARROW&BALL』は塗料と壁紙の専門店。ロンドンにできる新しいショールームのマネージャーになってくれないかというスカウトでした。すごく嬉しかったですね。まさしく小売のスキルとクリエイティビティが使える仕事。マネージャー兼カラーコンサルタントとして8年間働きました」
FARROW&BALLの塗料と色の世界
イギリス南部にあるドーセット州の小さなファクトリーショップから始まった「FARROW&BALL」は今や世界60カ国以上に拠点をもつ塗料ブランド。イギリス人たちが愛する商品だったと植木さんは教えてくれます。
「『FARROW&BALL』の塗料の良さは、そのクラフトマンシップ。Made in Englandの良さがぎゅっと詰まった商品という点です。独自の工場で独自のクオリティチェックを経て完成する塗料は、どの会社にも真似できない色合い。しかも素材はほとんど自然素材ですべて水性塗料。限りなくエコで、人にも環境にも優しいものでした」
「FARROW&BALL」の品位と人気ぶりは、「FARROW&BALLの塗料で壁を塗れば、家が早く高く売れる」と言われるほど。その独特の色について、植木さんはこう語ります。
「空間に入った瞬間に塗料のよさを体が認識するんです。それは色のよさであり、質感のよさであり、それだけではなく光や、柔らかさや、優しさが空間に満ちる。それがなんとも言えないです。『FARROW&BALL』の色はチョーキーマットと表現されますが、その風合いの独自性がやはり唯一無二なんです」
イギリスと日本のインテリアの捉え方の違い
煉瓦造りの似通った外観の家がストリートにずらりと並ぶイギリス。けれど、中に入れば本当にそれぞれの違う趣のある世界。そんな風に空間づくりをこだわりながら愉しむお客様と関わる中で、植木さんはインテリアの素晴らしさをしみじみと体感していきます。
「インテリアは生活の一部、決してハードルが高いものではないと僕は思います。それぞれの人の想いや思い出、大切にしているものが、ただそこにあればいいんです。イギリスの子どもたちは自分が育った家の壁の色を覚えているんです。そういう家に対しての情景や価値観が僕は大好きで、いいかたちで日本にもインプリメントしたいと思いました」
イエローハウスの壁紙
塗装の文化が根付いておらず、自分でやったことのない人がほとんど。帰国後、植木さんは「塗装と人々の距離が遠い」ことにショックを受けたそう。どのように発信するかを考えた結果、まずはショールームが必要だという結論にたどり着き、小淵沢の森の中に事務所を構えます。
「小淵沢、素晴らしいところだと思いました。東京からも近いのに、この大自然。小淵沢が馬のまちである点や、どこか外国の風情が漂っているところにも惹かれました。ここに住む人はきっとライフスタイルにもこだわっているんじゃないかなって。季節の色や光の色、色を通して小淵沢のよさを伝えたいと思いました」
Kobuchizawa.Colourのコンセプトルームの一つ「Yellow House」は、中古の別荘を買い取り、大規模なリノベーションを実施した物件。インテリアはKobuchizawa.Colourの塗装と、WALLPAPER STOREの壁紙で彩られている。
「書斎に貼った白樺。これは『Cole&Son』のもの。『FARROW&BALL』で働いていた頃、何人の人がこの壁紙に合わせて塗料の色を選んでほしいと相談に来たのでしょう。この壁紙を見ると、働いていたことや『Cole&Son』との繋がり、イギリスを思い出します。もちろんデザインも好きです」
もう一つ、最上階の寝室には、ピンク色の可憐な木蓮が。
「僕にとって木蓮は春の第一印象。冬の後に花開くときの香りと色と花が美しかった記憶そのものです。睡眠は美を養う時間。華やかさと温かみを出したいと思い、木蓮の花でピンクを取り入れています。
塗料を決めるときも壁紙を選ぶときも、僕はただカッコいいだけでは物足りない。そこにストーリー、つまり壁紙を持つ人の想いや思い出が加わるとより意味のあるものになると考えます。見た目だけでは飽きるのも早い。
せっかく選ぶなら、自分とのつながりや家族とのつながりを感じて欲しいと思います。そういう選択を積み重ねた先に、自分にとって本当に居心地のいい空間は出来上がる。そうすれば、家が本当に幸せな空間になると思います」